フルイチマサヒコ日本画文庫

 

空気を描くには、観察が必要である

空間を描くには、分析が必要である

世界を描くには、物語が必要である

 

「ショートケーキの苺は絶対に譲らない兎・くろの肖像」

 

この世界には、あまた苺好きというものたちがいるが、私の嗜好は彼らとは、ちと違うのだよ。私の好む苺は、ずばり“ショートケーキの上にのった苺”なのだよ。もちろんショートケーキのスポンジとスポンジの間にも苺は挟まっている。しかしあれらは、私にとってはただの苺なのだ。

“ショートケーキの上にのった苺”この真のショートケーキの苺であり、苺の中のKING(王)なのだ。だからこの苺は、誰にも譲ることはできない。ご理解いただけたかな。

 

「どんなに好物でもヒゲにミルクココアが付くのが嫌な猫・

クロの肖像」

 

水よりも好きな飲み物はミルクで、ミルクよりも好きなものはミルクココア。ココアだけでは苦すぎて飲めないけれどミルクココアなら飲める猫のクロには、どうしても嫌なことがある。それは、ミルクココアがヒゲに付いてしまうこと。だからスプーンを使い、そーっとそーっと飲むのだが、どうしてもヒゲはミルクココアだらけになってしまう。「ストローを使えばいいのに。」と人は言う。しかしそれはできない。皆わかっていないのだ。熱いミルクココアをストローで飲むということが、どう言うことかを。彼は“ネコジタ”なのだから。

 古の噺とtsuKiの世界

 昔々、人とも獣ともつかず、子供とも大人ともつかないものがいた。しかし何故だか、やることなすことあらゆる姿がとても愉快に見えたので、いつからかは分からないが、ある時から道化と呼ばれるようになった。

彼らの様子と、彼らが見つめるものを描き出した作品を中心に展示いたします。

それと合わせて継続して制作しているテーマ「tsuKiの世界」の中から『眠る森の果実にのぼる』を展示いたします。

「古ノ道化、丈比ベスル図」F10(日本画)

 

この道化という生き物は、花の背丈ほどのものが多いようだ。ここに登場する花は、チューリップをモチーフに描いたものだ。子供のころチューリップと言えば、シルエットから王冠のような三角頭の花という風に、イメージした人も多いだろう。しかし実物は、丸みを帯びたかわいらしいものだと、あとになって気づくことが多い。そういうことは、他にもたくさんあるのだろう。

江戸絵画の一つに大津絵というものがある。作者不明の土産物として制作された作品は、ユーモアあり、そして時に教訓的でもあり、護符として人々の幸せを願う役割もあった。道化というキャラクターが織りなす世界を描くことで、現代版大津絵を日本画の技法を使い目指していきたい。

古ノ噺とtsuKiの世界

 

 未来の話をしようではないか。100年や200年先なんてものではない。例えば7万年後、いや100万年だっていい。とにかくかなり遠い未来の話だ。

遠い未来の世界では、今起こっていることは全て昔話になってしまう。昔話と大きく括ったが、未来が無数にあるように過去だって人や事柄の存在の数だけあると思うのだ。

個人レベルのエピソードは思い出と呼ばれるものになるだろう。

 あらゆることが事実として記憶されたものは、人の手によって記録され、そして歴史と呼ばれるものになっていくのだろう。

しかしこれら二つのようなものとは異なった道を辿るものもまだまだある。それが言い伝えやお伽話などと呼ばれるものだろう。始まりは個人の勘違いであったり、尾ひれがついてしまったり。真実をより広く、わかりやすく言い伝えるために、又はその逆に他者にはわかりにくくし、身内にだけ伝えるためにオブラートに包むような暗号化のような例え話を作る。もちろん真実を意図的に捻じ曲げた話を作り出すということもあるだろう。ひとまずここでは創作が入った古の噺はお伽話としておこう。

 我々の住む青い星からtsuKiへは、ハシゴを登って移動をしたと信じられていたが、もしかするとそこにあるはハシゴの名残ではなく、古の時代に科学技術が最高潮に達した時の名残、宇宙エレベーターの残骸かもしれない。森の中で朽ち果てて無数にころっがているtsuKiへの吸水管と思われていたものは、実は人類が大戦で用いた無数の砲台の名残かもしれない。

 時として、あらゆることへ疑問を持つことが創造の源になるということも、あると思うのです。


 「tsukiの世界とは」(これまでのあらすじ)

この話は我々とは全く別の世界の話であるから、別段気に病むことは何一つないのだ。ある青い星には、多くの人という生物が暮らしていた。この青い星には、海という大きな水たまりと、湖という海より小さな水たまりと、池や沼というさらに小さな水たまりがあり、川という水の通り道がそれらをつないでいた。そして、その青い星のまわりを小さなひとつの星が、ぐるぐるとまわっていた。その小さな星が、青い星を一周する所要時間は、約720時間だという。

青い星にいる多くの人という生物は、水のない陸というところで暮らしていて、夜になると空に浮かぶ、ほかの星という物体を見て楽しんでいた。特に多くの人たちの興味を引いたのが、自分たちが暮らす星の周りをぐるぐる回る小さな星だった。そして、いつしか多くの人たちは、そのぐるぐる回る小さな星のことを「tsuKi」と呼ぶようになった。多くの人たちは、この「tsuKi」を観察するために大きな望遠鏡を作り、夜な夜な眺めるのだった。と、まあここまではだいたい我々の世界とほぼ同じといってよいであろう。違うとするなら「tsuKi」のほうであろう。我々の世界の「月」には生物は存在しないが、こちらの「tsuKi」では生物がしっかりと生きている。しかもかなりマイペースに。

では、この「tsuKi」とは、どのようなほしなのだろうか。そしてそこで暮らす生物とは、いったいどのようなものなのだろうか。ちょっと、望遠鏡をのぞいてみることにしましょう。